2024年度、本屋大賞三位となった「存在のすべてを」。
あらすじ紹介、感想を綴ります。
塩田武士「存在のすべてを」あらすじ&概要
タイトル | 「存在のすべてを」 |
作者 | 塩田武士 |
出版社 | 朝日新聞出版 |
出版年 | 2023年9月初版 |
装画 | 野田弘志「THE9」(姫路市立美術館所蔵) |
高柳雅人 | |
ページ数 | 全464ページ |
1991年、二つの誘拐事件が同時に起きた。
事件は、残念ながら犯人は捕まらず、一方の誘拐事件では子供が帰らぬままとなる。
子どもは4年後、ある日突然帰ってくるが、関係者は固く口を閉ざし
事件は未解決のまま事項を迎える。
事件から30年。時効を迎え、さらに事件を追っていた刑事が
ガンで亡くなった。そこには弔問に訪れた新聞記者・門田がいた。
門田は定年間近だったが、事件に吸い寄せられるように自分で30年前の
事件の真相を追い始める…。
塩田武士「存在のすべてを」感想
誘拐のドキュメントから始まる「存在のすべてを」。
このドキュメントが面白く、誘拐事件の謎に迫る面白さを感じる。
が、物語は、未解決のまま
30年の時を経ることになる。
事件自体は時効を迎えるが、最近有名になった写実画家が、
誘拐事件の被害者だった!という暴露記事と、
あの誘拐事件に翻弄された刑事の無念の思いを晴らしたい、という
新聞記者から話が展開していく。
何の手がかりもないままに30年が過ぎて、今更事件は解決するのか?
なぜ関係者たちは事件後、口を閉ざすことになったのか…
そこが「誘拐事件」というサスペンスな展開かと思っていたら、
意外と真実は人間味のあるストーリーで、思いの外
心を動かされる結果となった。
写実画家、というジャンルに対する知識もなかったが、
その部分も十分に興味深く、
「写実」で結ばれる絆という面でもドラマチックな内容だった。
塩田さんの作品は、これまで「罪の声」や「騙し絵の牙」を読んだが、
どれもストーリー展開が細部に渡って面白い。
かつ、人間味に溢れている。
誘拐事件、という点だけで終わるのかと思っていたら、
ラストには思わず涙がこぼれてしまう展開だった。