「2020年の恋人たち」あらすじ・概要
タイトル | 2020年の恋人たち |
作者 | 島本理生 |
出版社 | 中央公論新社 |
刊行日 | 2020年11月24日 |
ページ数 | 296ページ |
ジャンル | 恋愛小説 |
あらすじ
主人公の葵は、母親が突然事故で亡くなったことをきっかけに母親がやっていたバーを継ぐことになる。
母親が亡くなってからの1年。東京はもうすぐオリンピックという年。
慣れない生活の中で訪れる様々な変化。
出会いと別れ。
そして、彼女に残ったものとはー。
以下、少しネタバレを含む可能性があります。ご注意ください。
「2020年の恋人たち」applebooksで読むならこちら島本理生の魅力
私は島本理生の小説が好きだ。
直木賞を受賞した「ファーストラブ」も良かった。
「ファーストラブ」はミステリーの要素もあり、より読みやすいものだったけれど、
彼女の描く恋愛観や、静かな文体が好きだ。
これを読む前に読んでいたのが寺地はるなさんで、その流れで読むと
島本理生さんの小説の「不健康さ」が浮き立って見えた。
登場人物たちはどこか「不健康」だ。
主人公・葵の母親はずっと「愛人」だった。
葵自身は就職して、商売をせず会社勤めをしている訳で、
「愛人」である母親と違う、と自負しているようでいて、
そこに囚われているところも感じられる。
そこが不健康というよりは、彼女の部分部分に感じられる精神そのものが、どこか不健康なのである。
不健康が悪いという訳ではない。
楽観的でも明るくもない、その不健康さからくる
冷静な視線。
その視線さがどこか気持ちがいいのである。
私なんかどこか浮き足立ってしまう時がある。
そこにこの冷静な視線の物語を読んでいると、なぜか気持ちが落ち着くような気がする。
物事、出来事、相手の行動、セリフに対して、冷静な眼差しで
処理し、島本さんの文体で一つ一つ言葉に表してくれると、
自分の精神も落ち着かせてくれる気がするのだ。
感受性という魔力
島本さんの小説に出てくる登場人物は
時に繊細すぎじゃないかと私なんかは思うことがあるけれど、
鈍感な私が見過ごしているだけで、時に人はこういうことに傷つき、
心を痛めることもあるのだと、痛めていいのだと、
教わる気持ちになる。
自分の中で見過ごしていたような傷を言語化してくれることで、
実は私もあの時傷ついていたことに気がつき、癒してくれる。
なんだかモヤモヤしていた気持ちが言葉になってスッキリすることがある。
島本さんの感受性のなせる技なんだろう。
※以下、ネタバレ注意。
1年に出会ういろんなタイプの男性
主人公は新しい生活になることで、いろんな別れと出会を繰り返す。
港 | 葵の元恋人。引きこもり。 |
幸村さん | 母親のバーの元常連客。葵に好意を寄せているが、なんだかねちっこい。 |
松尾くん | 新しいバーのアルバイト。明るく好青年。でも持病持ち。 |
瀬名さん | スマートで感じがいいが、既婚者。 |
海伊さん | 小料理屋を営んでいて、健康的で頼り甲斐があるが、独善的…? |
ざっと書き出しただけで、こんなにも出会いと別れを繰り返す葵。
何が文句あるのさ、この人でいいじゃん、とも思えるが、
結婚を考えない葵にとって
何を我慢する必要があるのか?なんだろうな。
いろんなタイプの男性を、冷静な目線で、
「でも、なんか違う」とバッサバッサ切っていく様子は
むしろ小気味よくも感じる。