寺地はるな「わたしたちに翼はいらない」あらすじ&概要
タイトル | わたしたちに翼はいらない |
作者 | 寺地はるな |
出版社 | 新潮社 |
発行 | 2023年8月 |
装幀 | 新潮社装幀室 |
写真 | コハラタケル |
ページ数 | 229ページ |
可愛く、綺麗にしていれば幸せになれる、と母親から言われ続け、中学からの同級生と結婚し、
一人娘を嘘の就労証明書で保育園に預けて暮らしている莉子。
最近、離婚を決意し、一人で暮らしながら父親の近くで一人娘を育てる佐々木朱音。
中学の時のいじめっ子と再会し、死にたいが死ぬ前にいじめっ子を殺してやろうと思った、園田。
同じ街に住む3人の全く違う視点のようで、重なり合う人間関係から描かれる物語。
寺地はるな「わたしたちに翼はいらない」感想
最近は、寺地さんの作品は長編が多くなっていて、
長編を読むたびに「あれ?」と思うことが増えた。
読みながら、主人公の感じ方や考え方に違和感を覚える。
悪い意味ではない。
展開や言葉選び…すらすらと読んでいる。けれど、時々忍び込んでくる。
安易に考えないで。安易に生きないで。
というメッセージに感じる。
そういう考え方もあるのか。そういう感じ方もあるのか。という感覚。
主人公の一人である朱音がいじめられていた時に担任の先生から受けた言葉に対する答えが
タイトルである「わたしたちに翼はいらない」だ。
常に物語の中で誰かにとっての助けとなる言葉が、別の誰かの助けになるわけではなく、
言葉や助けを求め、求められてそれに応えるだけが、正解なのではない、ということ。
それぞれ、考え方や価値観の違う3人が、微妙に生活が重なり合い、
時には助けを求めたり、救いになったりするのだけれど、
それに全力で応えることが必ずしも正解ではないのだ、という
自分には意外な展開だった。
自分が「是」とすること以外の考え方を見せられたようで、読書の楽しみをまたひとつ発見した。
するすると心に入ってくる読書もいいけれど、ちょっと引っ掛かりを残してくれる読書もまた、いい。