川上未映子「夏物語」概要・あらすじ
題名 | 夏物語 |
作者 | 川上未映子 |
出版社 | 文春文庫 |
ページ数 | 652ページ(文庫) |
装画 | 村瀬恭子「Ribbon」 |
デザイン | 大久保明子 |
大阪の下町で生まれ、小説家を目指し上京した夏子。38歳の頃、自分の子どもに「会いたい」と思い始める。
ただ、夏子には恋人もおらず、男性と性的なことが「できない」夏子は、
「精子提供」という方法に捉われ始める。
「精子バンク」から提供を受けて、「自分の子ども」を産む。
そんな中で、「精子提供」によって生まれ、自分の父親を探している、という
逢沢という男性に出会う。
自分の育ち、と、自分の子どもに「会いたい」という想い…
川上未映子「夏物語」感想
川上未映子さんの作品を読むのはこれが二度目だ。
二度目に読むのが、初めて読んだ作品の「乳と卵」の夏子目線から始まる、というのが
なんだか自分でも不思議だった。
でも、「話題作」という点で、それは自然な流れだったのだろう。
「乳と卵」は思春期の緑子の目線で描かれる。
突然「豊胸」手術を受けると言い始めた母親と連れ立って、東京の叔母・夏子の元を訪れる。
「夏物語」はその時のことが、夏子目線で描かれる。
緑子の日記も挟まれる。
どうして、このストーリーから始まったのか。
それは、夏子が「父親」のいない「自分の子ども」を熱望するようになったからである。
緑子は、自分がいることで母親が苦労し、自分が生まれたことで変わってしまった「乳」を手術しようと
しているのではないか、それなら自分を産まなければよかったじゃないか、と吐露している。
それを傍らで見ながら、夏子は自分の幼い頃のことや、自分を育ててくれた「女たち」を思い出している。
姪である緑子の中に、自分が大好きだったコミばあや母親の存在を見ている。
自分は貧乏だったが、決して不幸ではなかったと思っている。
緑子の姿に、自分の娘の姿も見ているのではないか、と感じる。
そして、時は過ぎ、小説家として売れずともそれなりに収入を得るようになったころ、
夏子は自分の子どもに「会いたい」という想いに囚われ始める。
そして、精子提供によって生まれた人たちの話を聞きに行ったり、出会って具体的に
その人たちの声を聞くこととなる。
中でも、善百合子という人の言葉は、
母親や父親によって「生まれさせられた」という想いを強く語る。
誰も子どもたちは望んではないないんだ、という気持ち。
それは始めの緑子の中にもある。
だから、緑子の話から始まったのかもしれない。
年月が経った緑子は健やかに生きていて、人生を楽しんでいる。
「生まれる」「生きる」「生む」「生きる」
何も考えずにただただ生きてきたけれど、そして産んで一生懸命愛してきたけれど、
もっともっと愛さなければ、もっともっと生きていこう、そんな気持ちになる作品だった。
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