井上荒野「僕の女を探しているんだ」概要・あらすじ
タイトル | 僕の女を探しているんだ |
作者 | 井上荒野(いのうえあれの) |
出版社 | 新潮社 |
出版年 | 2023年2月 |
装幀 | 新潮社装幀室 |
装画 | 森泉岳土 |
ページ数 | 全203ページ |
韓国ドラマ・ネットフリックス沼民を次から次へと引き起こした立役者ともいうべき「愛の不時着」。
私も「愛の不時着」によってネットフリックス沼民となった一人である。
本書の作者・井上荒野さんも「愛の不時着」にどハマりした、というのはあちこちの
エッセイで読んで知っていたが、彼女が「愛の不時着」のオマージュとして
小説を書いたという…それは、一体…???
「愛の不時着」民なら気になって仕方ない、その小説。いかに。
井上荒野/「僕の女を探しているんだ」/感想〜それぞれのリジョンヒョクを求めて
リ・ジョンヒョクという男
本書はすでに短編として成り立っている。
日本のいずれかの地域において、それぞれに生活するそれぞれの人々。
いろんな悩みを抱え、いろんな人を想い、生きている。
そこに不意に現れるリ・ジョンヒョク。
それは不思議な存在で、不意に現れ、不意に消える。
もはや妖精のような存在である。
でも、確かにリ・ジョンヒョク、彼は私たちにとって妖精のような存在である。
理想を全て詰め込み、具現化した男。
それがリ・ジョンヒョクなのである。
実際にリ・ジョンヒョクのような男が北朝鮮に存在するのか、
それはわからない。
けれど、私たち日本人や韓国人が入っていけない国だからこそ、
いるかいないかわからない幻の存在として
登場することができたのでは、と思う。
そして、彼が韓国の日常に現れることも無理であれば、
ましてや海を渡って日本になど…
だからこそ妖精のように現れては消えるのだろう。
オマージュとして
日常は、いや現実にはリ・ジョンヒョクのような夢の男は存在し得なくて、
短編に出てくる人々はごくありふれた人たちである。
ごくありふれた人たち、それは思い通りにいかない、時には汚い現実もそこにはあって、
そこにリジョンヒョクが現れたなら…
こんな言葉を言って、こんなことをしてくれたら…
それって日常に、もしかしたら潜んでいる、
小さな奇跡かもしれない
そんな風に思わせてくれる。
短編の中には「愛の不時着」に出てきたあんなエピソードや
こんなエピソードが盛り込まれている。
はいはい、あそこのあれね。うんうん、わかるわかる、これ、私もやりたかったのよ。
ユンセリにはなれなくとも、もし日常に現れたなら、
私もこんな風に時間を過ごせたなら…
作者の熱い熱いリジョンヒョクへの想いがあちらこちらから伝わってくる。
と、同時にこんな風に自分の中の「リジョンヒョク」を物語の中に
落とし込める小説家をものすごーく羨ましく思う。
それぞれのリジョンヒョク
このタイトル「僕の女を探しているんだ」、私は初めこのタイトルに違和感を
覚えていた。
あのリジョンヒョクが「僕の女」なんて言い方するかなあああと。
いやいやしかし、これは読んでみたらこの「女」という微妙なニュアンスも含めて
きちんと考え抜かれたタイトルだったのだ。
はっは〜(ひれ伏す音)である。
深い。実に深かった。
「愛の不時着」をみて、リジョンヒョクを好きになって、
きっとそれぞれの中にそれぞれのリジョンヒョクがあることと思う。
けれど、それぞれのリジョンヒョクを決して損なうことなく描かれている。
もし、こんな人たちの前にリ・ジョンヒョクが現れたら…
そんな感じで描かれていて、そして、「愛の不時着」をみていないとしても
妖精・リジョンヒョクとして受け入れれば…ままならない日常に不意に現れた救世主、
そんな存在として、リジョンヒョクという役柄はぴったりなんだなあと
改めて感じる作品だった。
hontoなら紙でも電子でもお好きな方で読める