K文学「ハヨンガ」作品紹介
タイトル | 「ハヨンガ ハーイ、おこづかいデートしない?」 |
著者 | チョン・ミギョン |
訳者 | 大島史子 |
出版社 | アジュマブックス(日本)イフブックス(韓国) |
発行年 | 2021年6月 |
ページ数 | 381ページ(解説含む) |
あらすじ
韓国に実在した韓国最大ポルノサイト「ソラネット」と実在するフェミニスト集団「メガリア」との
闘いを描いた、ドキュメンタリー小説。
本作の中では「メガリア」は「メデューサ」として登場する。
マーケティング会社にインターンとして勤めるジスとファヨン。
ジスの親友であり、新米薬剤師として働くヒジュン。
三人の女性から見た韓国の性の実情を軸に、描かれる女たちの闘いの物語。
「ハヨンガ」感想・解説
本書は、泥酔した状態の女性がホテルに連れ込まれるところから始まる。
はっきり言って、読んでいて気分が良くない。
いや、むしろ胸くそ悪い。
女性を軽んじた、ネット上での男性のやり取りがたくさん出てきて、
何度ももう読むのをやめよう、読みたくない、と思う。
でも、実際にこういう目に遭わされた女性が、どこかにいて、
それに対して闘ってきた事実があるのなら、
それを私たちは知るべきだ。
私は幸いにも、怖い思いはそんなにしたことがない。
ヒヤリとすることや不快に思うことはあっても、
本書に出てくるような本当の恐怖、本当の嫌悪には対面せずに済んだ。
それは、確かに「幸いにも」なのだ。
ただ、自分が幸運なだけで、ただの綱渡りのようなものだったのだと、
自覚するべきだ。
そういう目にあったことのない人間が、
そういう目にあった人に対して
被害にあった人が落ち度のあるような言い方をする一部の女性にはなりたくない。
時々、そういう男性がいて、それに同調する女性がいる。
そうなってはダメだ。
私は知らなくてはならない。
そういう目に遭わなかったのは、自分が幸運なだけだと。
そして、そういうめにあった人の不運を繰り返さないようにしなくてはならない。
被害に遭った人は何も悪くない。
注意を払っても払っても降りかかる不幸のある、この世の中がダメなのだと、
きちんと理解しなくてはならない。
私の世界は安全だ
私の周囲の人々は安全だ
そんな安っぽい慰めが何の役に立つのだ。
自分の世界だけを守ための無用な心配じゃないかと気づいた
助けたければ助ければいい
誰かの力になりたければ
そうすればいい
本書の中でジスは被害に遭っていない。
けれど、被害に遭ったファヨンやヒジュンのために一緒に立ち上がる。
ポルノサイト「ソラネット」を巡回しながら、そこに書かれる数々の不快な表現に
何度も、「もうやめたい」と思う。
それを見なければ、知る前ならば、なかったことと一緒じゃないか、と
目を背けたくなる。
私も、それを知らなければこんなに不快な思いをしなくてはならなかったんじゃないかと思う。
けれど、「知ること」と「知らないこと」には大きな大きな溝がある。
私たちは知らなくてはならない。
私は、知ってよかったと思う。
ジスは、知ることで、知っていて黙っている男性も、攻撃をしないまでも
黙認している時点で同じ穴のムジナじゃないかと思うようになる。
私は、そこまでは思えないけれど、
若い女性が、実情を知った女性が、被害に遭った女性が、そう思ってしまっても仕方ないようにも思う。
最後に
女性は知ってしまったことで、男性に対する不審も芽生えるかもしれない。
けれど、闘うことで、世界が本当に安全で信じられるようになったとき、
本当の意味で、男性は男性として、女性は女性として互いを認め合い、
お互いの良いところを尊重しあえる世の中に、もしくは、そんな相手と出会えた時に、
若い女性たちも、光を見ることができるんじゃないかと思った。
この作品は男性にこそ読んでほしいが、
男性はきっと、こうした女性の声をなかなか聞けないのではないかと思う。
自分が例え「そう」でなくても。
女の私ですら、知らずにいたこの何十年という月日を恥ずかしく思う。
私にも子どもがいる、未来の子どもたちのために、私は読むべきだと思った。
女性が受ける不利益がどう言ったものか、
どういう世の中であるべきか、それを私がしり、意識をまず変えていくべきだと感じた。
具体的な運動には参加できなくとも、
違う意識を持った今日から、世界は変わっていくと思うから。
これは、そうなるための、一つの教科書だと思う。