ホテル勤めの主人公・続力(ツヅキチカラ)は、新しく登録された筆耕士の遠田薫氏の自宅を訪ねることになった。
一風変わった、書の指導をする遠田。
どこか飄々とした態度ながら、そこから紡ぎ出される書に魅了される力。
また、遠田は自由自在に筆跡を操ることができた。
そして、なぜか代筆業を手伝わされることになる続。
続と遠田の不思議な邂逅が始まる。
タイトル | 「墨のゆらめき」 |
作者 | 三浦しをん |
出版社 | 新潮社 |
彫刻オブジェ制作 | shikafuco |
ブックデザイン | 石井勇一(OTUA) |
発行年 | 2023年 |
ページ数 | 225ページ |
三浦しをん「墨のゆらめき」感想
「墨のゆらめき」というタイトルから、書のお話であることは想像できた。
「書」に関するお仕事小説、といったところかなあと。
三浦しをんさんといえば、「舟を編む」や「愛なき世界」「神去なあなあ日常」といった、
少し変わった…マニアックな?愛情を持ってお仕事を描いた小説がいくつかある。
「書」のお仕事に携わる遠田という人物は出てくるし、遠田は自由自在に筆跡を
変えられる特殊な才能も持っている。
けれど、この物語は遠田の書への情熱、とか才能とかそういった類ではない。
どちらかというと、遠田と主人公の「交流」の方に焦点が(私の焦点か?)当てられている。
三浦さんの物語らしく、男性二人のキャラクターはそれぞれ、少し脱力していて、
やりとりが面白い。
全く正反対の二人のゆる〜い会話から、ゆるくも徐々に関係が深くなっていく様子。
遠田の「書」の指導は大変ユニークで下品で、面白い。
小学生にはそれでいいけれど、大人の部の指導は一体どうしているのか…とちょっと気になる。
やがて明かされる遠田の過去は、少し哀しみがあり、
その哀しみをこうした明るい会話劇で包みつつ、向き合っていく様子は
三浦さんらしいな、と思った。
拭えない哀しみはあれど、人は「生きていく」のだ、と強さ、逞しさを感じる。
今後、実写化もあっていいと思えるぐらいにそれぞれのキャラクターがイキイキしている。
遠田は誰がいいかな?主人公の続は?と考えながら読むのも面白い。