
夏川草介「スピノザの診察室」あらすじ・概要
京都の下町。河原町や鴨川の近くのある地域病院。
ここで働く雄町哲郎。ここ「原田病院」は地域に根ざす病院で、往診も行う。
診察に来る人は、近くの人や老人ばかり。最先端の医療とは言い難い。
けれど、哲郎は昔、医療の最先端を担う大学病院で将来を嘱望されていた身。
ある事情によって、大学病院を去り、甥っ子と二人で暮らしながら、「原田病院」で働いている。
彼の能力を惜しむ人は多数いれど、哲郎本人はどこ吹く風。
彼には彼の「哲学」があるのだった…。
タイトル | スピノザの診察室 |
筆者 | 夏川草介 |
出版社 | 水鈴社 |
装画 | 五十嵐大介 |
装丁 | 名久井直子 |
ページ数 | 287ページ |
初版 | 2023年10月 |
夏川草介「スピノザの診察室」感想
亀屋友永の「小丸正露」、パティスリー菓欒の「西賀茂チーズ」、
村上開新堂の「マドレーヌ」、緑寿庵清水の「金平糖」、阿闍梨餅に長五郎餅…
嗚呼、この作品には美味しそうな京都のお菓子がたくさん登場する。
京都のあちこちには、昔ながらのお菓子屋がたくさんある。
大通りにも、路地裏にも、神社の中にも、大手デパートにも…昔からある有名店、そして新しいお菓子。
甘党の主人公・雄町哲郎が機嫌良くするのは甘いものを食べた時。
どんなに大変な診療の後も、手術の後も甘いものがあれば、機嫌よく過ごせる。
いや、雄町哲郎はいつも穏やかだ。
不機嫌な様子を見せることはない。
いつも飄々として、狼狽えることなく穏やかに対応する。
「人生の最期をどんなふうに迎えるのが一番いいのか。」
雄町は、「原田病院」にきてから、最先端とは言えなくとも、余命わずかな人たちと接していき、
ただ目の前の人の「しあわせ」を祈り、「人生の最期」を医者としてどんなふうに
治療をしていくのがベストなのか…その命題に向き合って生きるようになった。
人としても、「人生最期」についての悩みは尽きない。
それを、医者が真剣に悩み、向き合い、ベストを尽くそうとしてくれるということは、
些末な日常を生きる者にとって
何よりも希望である。
そして、この小説は、人生の深みを考えさせてくれる部分と気持ちを掬い上げてくれるような華やかな部分とが
両方ある。これは、映像化されるに違いない!と踏んでいる。