「52ヘルツのクジラ」で本屋大賞を受賞した作家町田そのこさんによる最新作「夜明けのはざま」
感想やあらすじをご紹介します!
町田そのこ「夜明けのはざま」概要・あらすじ
タイトル | 夜明けのはざま |
作者 | 町田そのこ |
出版社 | ポプラ社 |
発行年 | 2023年11月 |
装画 | yasuo-range |
装丁 | アルビレオ |
地方都市の寂れた町にある、家族葬専門の葬儀社「芥子実庵」。仕事のやりがいと結婚の間で揺れ動く中、親友の自死の知らせを受けた葬祭ディレクター、元夫の恋人の葬儀を手伝うことになった花屋、世界で一番会いたくなかった男に再会した葬儀社の新人社員、夫との関係に悩む中、元恋人の訃報を受け取った主婦……。
死を見つめることで、自分らしく生きることの葛藤と決意を力強く描き出す、『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞した町田そのこ、新たな代表作!(ポプラ社 作品紹介より引用)
本書は家族専門の葬儀社「芥子実庵」を取り巻く5つの連作短編からなる。
「見送る背中」
仲良し3人組の一人の結婚式のシーンから始まる。佐久間は家族葬専門の葬儀社「芥子実庵」で葬祭ディレクターとして勤めている。
自分の仕事には誇りとこだわりを持っているが、家族や恋人からの理解が得られないことに不安と不満を持っている。
そこへ親友の一人が自死したという知らせが入る。
親友の希望により、自分が葬祭を執り行うことになるが…
「私が愛したかった男」
「芥子実庵」から依頼を受けて祭壇の花のアレジメントを行う会社に務める主人公。娘を女手一人で育ててきた。もうすぐ大学も卒業という年頃になるが、なかなか思うようにいかない…。
そんな折、元夫からその恋人の葬儀の一切を取り仕切って欲しい、という依頼が届く。
久しぶりに会う元夫は相変わらず頼りなく、情けなく思うが、それでいていろんなことが見えてきて…。
「芥子の実」
「芥子実庵」に勤め始めた須田。特にやりがいを感じることもなく醒めた目で葬儀を見送っていた。
母親を貧しい中亡くし、豊かに見送られる人々を常にどこか冷めた目で見る須田。
ある日、
葬儀の喪主として元同級生がやってきた。
それは、須田がもう二度と会いたくないと思っていた相手だった。
「あなたのための椅子」
主婦として子育てをしながら生活する良子。夫とは長く不仲になっていた。
そんな折、中学校の頃から仲の良い5人組の一人、壱が亡くなったとの連絡が来た。
葬儀に行きたいという良子に夫は「男の葬儀に行かせない」と言う。
良子は昔に思いを馳せながら、葬儀へ行くことを決める。
「一握の砂」
葬儀会社の仕事を辞めて欲しいと言う恋人との関係に悩む佐久間。
仕事への想いと恋人への想い、そして家族の想いに触れ悩む佐久間。
果たして佐久間の出す結論とは…
町田そのこ「夜明けのはざま」感想〜芥子実庵という葬儀社
家族葬専門の葬儀社「芥子実庵」は、他の葬儀社とはちょっと違う。
こじんまりとしていながら、その中身は実に豊かである。
木々に囲まれた建物。他の喧騒からは離れ、贅沢な庭を持つ。
遺族控室には高級ホテルさながらのしつらえ。
遺族はそこで亡くなった人と最後の別れを惜しみながら過ごす。
贅沢な作りで、ゆっくりと満足する人々もいれば、早すぎる死や無念の想いが拭えない別れに
ただただ、悲しみに暮れるしかできない人もいる。
どんな別れでも、その悲しみは人それぞれで、誰にでもその別れは必ずくるとわかっていても、
人と比べて楽なことも何もない。
誰にでも起こりうる別れでありながら、「死」はやはりそれぞれにとって重く大きい。
どうしても乗り越えられない人もいる。
乗り越えられる人もいる。受け入れて強く逞しく生きる人もいる。
けれど、いない人もいる。
その大前提をあらためて考えさせられた。