連作短編が好きだ。
こんなにも完璧に私好みな連作短編に出会えたことが嬉しい。
町田そのこ「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」
タイトル | 夜空に泳ぐチョコレートグラミー |
作者 | 町田そのこ |
出版 | 新潮文庫 |
カバーデザイン | 新潮社装幀室 |
カバー印刷 | 錦明印刷 |
ページ数 | 321ページ(文庫版/解説を除く) |
町田その子氏デビュー作「カメルーンの魚」を含む5つの連作短編。
「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」感想〜仕掛けの面白さと弱いものに寄り添う小説の温かさ
連作短編がスキ
連作短編が好きだ。
1つのお話から、次のお話へ進んだ時の、「次は誰のお話だろう」というワクワク感が好きだ。
「次はあの人の話か!」と分かった時の喜びはミステリー小説の謎解きを読んでいるような心持ちに似ている。
なかなか誰のお話か分からずに、「あれ、連作じゃなかったか。まあいいっか。」と
その短編自体に入り込んでいった先の「ああ!この人か!」とわかる喜び。
「この人」を選ぶセンスが大変好きだ、と感じた。
一つのお話の主人公から、そのお話の脇役に主人公が変わる。
誰もの人生が、みな、それぞれの主人公であるということ。
通り過ぎていったあの人も、みんなそれぞれに大切な人生を生きているということ。
それぞれに辛い思いがあり、それぞれに幸せがある、ということ。
そんなことを思い出させてくれる、連作短編が好きだ。
仕掛けがオシャレというか秀逸というか
それぞれの短編に、それぞれ仕掛けがある。
それは連作短編の主人公が「誰か」ということであったり、
ストーリー展開であったり、それぞれに仕掛けがあり、
視点が逆転したり、そういうことだったのか、と合点がいったりする。
その仕掛けがまた心地いいのだ。
思わず読み直したくなるような展開、仕掛けにやはりミステリーのような心地もある。
「うまいなあ」と唸らされる。
これがデビュー作というのだから、これ以降の作品が面白くないわけがない。
本屋大賞受賞の「52ヘルツのクジラたち」も面白かった。
でも、私はこっちの方が何倍も好きだ。
「52ヘルツのクジラたち」を読んで他を読もうと思っていなかったけれど、
「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」を読んだら、全部全部デビュー作から順番に全部読んでいこうと
思った。
それぐらいに構成も秀逸なのだ。
何よりもストーリーが弱者に寄り添う温かな内容
弱者、というか、何かしら「生きづらさ」を感じている人たちが出てくる。
うまく立ち回ることができない、とか一ところにいられない、とか
折り合いをつけることが難しい、とか誰かをうしなった、とか。
表題作である2つ目の「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」は中学生の子たちの
物語だ。タイトルも秀逸であるし、
何より大人に振り回されながらも、大人を懸命に理解しようとし、それに応えようとする
子どもたちが眩しくて、抱きしめてあげたくなる。
一生懸命に生きて、大人になろうと必死で踏ん張っている子どもたち。
可愛い可愛いチョコレートグラミー。
こうした物語が根底にあり、尚且つ仕掛けがあって、連作短編の展開の仕方が
完璧に私好み、とあったらこれはもう好きになるしかない。
町田そのこさんその他オススメ作品
本屋大賞受賞作であるから、ただただ面白かった。
これもまた社会で取り残された人々が優しく寄り添い合う内容で、ほんのりと温かな気持ちになれる。