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「香君」あらすじ・概要
タイトル | 香君 上「西から来た少女」下「遥かな道」 |
作者 | 上橋菜穂子(鹿の王・精霊の守り人他) |
出版社 | 文藝春秋 |
出版年 | 2022年 |
ページ数 | 上 440ページ 下 460ページ |
作者紹介
上橋菜穂子さん/
1962年東京生まれ。文学博士。川村学園女子大学特任教授。
1989年「精霊の木」で作家デビュー。
著書に「精霊の森女」を始めとする「守り人」シリーズ、「獣の奏者」「鹿の王」など。
野間児童文芸賞、本屋大賞、日本医療小説大賞など数多くの賞に輝き、2014年には国際アンデルセン賞作家賞を
受賞。
2020年、マイケル・L・プリンツ賞オナー、日本文化人類学賞を受賞。(本書、作者紹介より)
「香君」あらすじ
香りで万象を知る「香君」という存在がいるー。
帝国は「香君」という存在と人々に豊かな生活をもたらすオアレ稲という存在により
発展を続けていた。
物語はアイシャという少女が、住んでいた場所を追われ、
逃げるところから始まる。
彼女は人とは違う能力を持っていた。
香りでいろんなことー人の動き、感情、草花の声ーを聞き取っていた。
彼女が帝都に連れてこられ、
やがて、長い歴史の中に変化が生じ始める。
「香君」感想〜まずは上巻を読み切ること
まず、上橋さんのファンタジーではいつものことなのだが、
名前を覚えるのに時間がかかる。
全く新しい世界を作り上げている上橋さんのファンタジー。
出てくる名前は全く馴染みのないものばかり。
和子でなければ、ジョージでもない。
アイシャやらウマール帝国やら、まずそこの人間関係、
位置関係を覚えることに苦労する。
そして、「精霊の守り人」「獣の奏者」シリーズと違い、
「鹿の王」そして「香君」には目に見える大きな動き、アクションがない。
「精霊の守り人」であれば、バルサが大立ち回りを行い、さらに不思議な力との対峙。
「獣の奏者」であれば、巨大な蛇に大きな鷹のような生き物。
しかし、「鹿の王」や「香君」ではそういった「不思議」は出てこない。
![香君イメージ1](https://asatsukihiromi.com/wp-content/uploads/2022/08/rice-gd172a8b66_640.jpg)
香りとなれば、さらに。
目に見えないものを感じながらの物語進行…
なかなか入り込むのに時間がかかるが、
「鹿の王」と同じく下巻に入り、物語が怒涛の展開を見せてからの
勢いはすごい。
さすが、である。
若干、ホラーの様相を呈してくる展開。
上巻で立ち止まっている方、もしおられれば、
ぜひ下巻まで頑張っていただきたい。
「香君」で改めて感じるファンタジーの力
「精霊の守り人」は始め、児童文学として出版された。
ファンタジーは子ども向けの分類であった。
けれど「鹿の王」で本屋大賞を取られたように、そこに隠された面白さと
メッセージ性の高さは大人の心にも十二分に響く。
ファンタジーという「架空」の世界にあるものは、
なんら現実世界と変わりなく、
「架空」だからこそ浮き彫りになる現実のものとの
関わり、学ぶべきもの明確さはあるように、私は思う。
完全なる「架空」なのに、そこは全世界に通じるような、
どこかでみたような歴史や、どこかでみたような人物がそこにいる。
![香君イメージ](https://asatsukihiromi.com/wp-content/uploads/2022/08/insect-g350914f98_640.jpg)
ファンタジーではあるものの、本当はあるんじゃないか、と感じさせる、
それが物語のすごいところである。
政治のあり方、国のあり方、見えないものへの畏怖。
自然への脅威。
2020年からこちら、我々が感じてきた自然への脅威や
国際社会へのあり方、疑念、人と人との繋がり、
そういったものが、形を変え、ここにはあるように思う。
ファンタジーという中で、むしろ無駄なものを取り払い、
ダイレクトに伝わる形になっているようにも思う。
生き延びる、という最も大切なことを行う時にすら、
人という生き物は様々な思惑に囚われ、戸惑い、迷い、
決断するまでに時間がかかる。危機感を共有することすら難しい。(香君 下巻より)
「香君」を読んだまとめ・こんな人におすすめ
ファンタジーを好きな人はもちろん、「鹿の王」で初めて上橋菜穂子さんを知った人にはおすすめ。
「精霊の守り人」から入った人にはイメージが違うかもしれないが、
それでもそこにはファンタジーのもつ魅力が存分にある。
「香り」ということで地味には感じるものの、
植物や自然の持つ力、人間にはない力、見えないものを信じる
人々の気持ちが感じられる。
自然を前に、厳かな気持ちになる、そんな物語だ。