ユン・ヨジョン/描かれるハルモニの素晴らしさ
アカデミー賞助演女優賞を受賞したのだから、彼女の演技が素晴らしいことはわかっている。
けれど、彼女の演技の何が素晴らしいか。
それは「ミナリ」をきちんと見ないとわからない。
私は、ユンヨジョンさんは「パチンコ」で初めて見させてもらった。
「パチンコ」ではヨジョン氏は主人公の女性の現在を演じている。
主人公の女性であるから、彼女の人生がそこには描かれている。
彼女の表情一つ一つが、そのドラマそのものなのである。
しかし、この「ミナリ」で描かれるのはハルモニの人生ではない。
描かれているのは、移民としての彼らである。
アメリカで大規模農場を経営する夢を見るジェイコブとその家族。
そこに、妻・モニカの母親として呼び寄せられたハルモニがユン・ヨジョンさんである。
ハルモニの人生はそこには描かれていない。
ただ、夫を戦争で亡くし、母一人、娘一人で生き抜いてきたことだけが語られるのみである。
ハルモニの人生の回想シーンなど一度も出てこない。
けれども、そこにはハルモニの人生に想いを馳せるような表情が浮かんでいる。
実際にはハルモニが自分の来し方を考えているわけではない。
けれど、ついその表情から、観ている方は彼女の人生を考える。
母一人子一人で支え合ってきたのであろうハルモニ。
娘夫婦がアメリカへ行くと言ったのを、応援してやったであろうハルモニ。
ハルモニは娘の役に立たんと、娘を励まし、
孫のデイビッドの面倒を見ている。
デイビッドはハルモニを疎んじているが、
どこ吹く風でデイビッドにたくさんの愛情を注ぐ。
英語の全くわからないハルモニと、カタコトの英語を話す両親に、
どちらかというと英語に重きを置く子どもたち。
韓国語と英語の混ざる会話。
通じ合っているようで、成立していない会話たち。
ああ、彼女の発する言葉ひとつひとつ、
気配ひとつひとつ、どれもが自然で、どれもがハルモニそのものなのである。
演じているのはスンジャというハルモニかもしれないが、
彼女はハルモニ全てを演じているようで、
彼女自身がハルモニそのものなのだ。
彼女の中にたくさんのハルモニがいるのだ。
娘を想い、息子を想い、孫たちを想ってきたたくさんのハルモニたち。
それが彼女に宿っている。
ミナリの強さ
ミナリというのはセリのことらしい。
ハルモニが韓国から持ってきたセリは、水場で育っていく。
私は移民ではないので、その芯まで理解することは難しいが、
映画で描かれる、その静かながらも、葛藤しぶつかり合い、生き抜いてきた
彼らの物語が、じんわりと心に広がる。
農場経営を夢見るが、なかなかうまくいかない夫・ジェイコブ。
移民として成功を夢見るが、なかなか馴染めずにいる、根を下ろせずにいる様子が
農場経営と重なる。
夫の夢を応援してあげたいが、子どもたち、特に心臓の弱いデイビッドのことが心配でならない
妻・モニカ。
しっかり者の姉・アンと甘えん坊のデイビッド。
きっと、アメリカのあちこちにいたであろう家族の形。
移民でなくとも、どこかに夢を求め、家族を守ろうとし、
生き抜いてきた人々がそこにはある。
どこにいても育つミナリのように。
ユンヨジョンさん演じるハルモニの可愛らしさ
素晴らしいハルモニ女優さんがたくさんいるが、
ユンヨジョンさん演じるハルモニはどこかちゃめっ気があって可愛らしい。
キムヘジャさんのハルモニも可愛いのだが、
その可愛さとはまた違う。
どちらかというと、ちょっとがらっぱち?
花札を片足ついて「こんちくしょー!!!」と言いながら、やってる姿もどこか可愛いし、
(キムヘジャさんはそんなことはしなさそう)
おねしょをするデイビッドをからかう姿も可愛い。
ちょっとヤンチャな感じだ。
その分、苦労が似合うのだが、苦労をものともしないイメージである。
強さと可愛らしさ、辛い目にあってもそれをものともしない感じがある。
だから、彼女に悲壮感は似合わない。
きっと何があっても生き抜くであろう、そんな強さが彼女にはある。
彼女自身が「ミナリ」なのかもしれない。