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【読書記録】寺地はるな/水を縫う〜あらすじ・概要・感想

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【読書記録】寺地はるな/水を縫う〜あらすじ・概要・感想

水を縫う
水を縫う

寺地はるな「水を縫う」あらすじ・概要

タイトル水を縫う
作者寺地はるな
出版社集英社
ページ数全240ページ(単行本)
装画生駒さちこ
装丁宮口瑚
寺地はるな「水を縫う」概要

清澄は「男の子だけど」裁縫が好き。

ゲームも興味がないし、母親が望むような友人たちとは仲が良くなれない。

高校入学を機に「普通の友達」を作ってみようと思ったけれど、

会話をしていても楽しくない。

それよりも刺繍の本を読んでいたい。

姉の水青は「女だけど」ひらひらした「可愛らしい」ものが苦手。

もうすぐ結婚するけれど、ウェディングドレスがどれもしっくりこない。

それを見ていた清澄が「僕が作る」と言い出す。

「私は私」「私の好きなものを好きだと言いたい」

「人と違っていたっていい」そんな想いが詰まった連作短編。

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寺地はるな「水を縫う」感想〜登場人物について思うこと

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松岡清澄「みなも」「流れる水は淀まない」

刺繍が好きで、休み時間も刺繍の本を読んでいたい。裁縫が好きだからサッカーやゲームをするよりも裁縫をしていたい。

そんな男の子。

母親が自分に本当はもっと違う形でいることを望んでいるのはわかっているけれど、

それを突っぱねることもなく、かといって受け入れるでもなく、

けれども祖母に心配はかけたくなくて

友人は作ろうかと試みる。

真っ直ぐで素直で芯のある子の様子は見ていて気持ちがいい。

言葉を多くは持たず、行動で示せる子。

一度「こう」と決めたらやりぬく子。

松岡水青「傘のしたで」

塾の事務職をしている姉。

ひらひらしたものが苦手。女の子らしいものが苦手。

そういった気持ちをどういう風に表現していいかわからずに、

「どうせあなたにはわからない」と思ってしまう。

水青のように嫌な思いをせずに生きてこられた運のいい私は

それが苦手な気持ちを素通りしてきたかもしれない。

嫌な思いをしても「ひらひらしたもの」「露出したもの」をファッションとして

着たいと思う子だっている。

それも含めて、そうした格好が悪いのではない、ということを

きちんと主張していかなきゃいけないな、と水青の話を読みながら読んだ。

「可愛いから」じゃない。

そうした体験は可愛かろうが何だろうが、関係なくそいつが悪いんだ。

松岡さつ子「愛の泉」

公務員として一家の働き頭として生きてきた。

働かない、育児にも家事にも参加しない元夫と別れ、

現実的に生きてきた。

忙しくし働き、子どもに手をかけられずに育ててきたが、

関心がないわけではないと、「こうしてほしい」「ああしてほしい」

「自分の父親のように叶わない夢を追い続けるのではないか、と

裁縫を好きな息子のことが不安」

「人並みに大学に行かせたい」と思ってきた。

一方で、いつも自分のやることやらないこと全てを肯定する母に

愛情の深さと共に物足りないものも感じてきた。

けれど母は言う。

「明日、降水かくりつが50%とするで。あんたはキヨが心配やから、傘を持っていきなさいって言う。そこから

先は、あの子の問題。無視して雨に濡れて、風邪をひいてもそれは、あの子の人生。

今後風邪をひかないためにどうしたらいいか考えるかもしれんし、

もしかしたら雨に濡れるのも、けっこう気持ちええかもよ。」

(本文・第三章「愛の泉」より)

松岡文枝「プールサイドの犬」

松岡家のおばあちゃん。

時代は自分が子どもの頃とは変わっている。

「女だから」「女なのに」そう言うことを言う時代ではなくなってきている。

それを頭では理解しながら、子どもの頃、子育ての頃、そして孫…と

変化していく価値観に身を委ねながらも

変わらずにいる自分の価値観に気が付く。

孫に理解を示し、おおらかな愛情で接する。

人の一生がたとえば一本の映画だとしたら、わたしの映画はあと何分ぐらい残っているのだろう。

後半であることは疑いようもないけど。

(本文・第四章「プールサイドの犬」より)

彼女の章は強くて、しなやかで人生があと少しといえども

これまでの価値観で凝り固まることなく、

自分を更新して、周りを受け入れて、柔軟にそしていつまでも

人生を、自分自身を積極的に生きていく先輩の後ろ姿を見せられているようだった。

全(清澄と水青の父親)

水青が7歳の時に離婚して、家を出て行った。

近くの縫製工場でデザイナーとして働く。

生活力がなく、頼りない、と見られているこの父親。

ふわふわとしていて、ふわふわとしたまま大人になり、

父親になってしまった人。

けれど、悪気はなく悪気がないからどう、ということもなく

さつ子に愛想を尽かされてしまった。

毎月養育費を払っているが、昔作ったワンピースを水青に拒絶されてからは

水青に会いにいけずにいる。

愛情はあるけれど、その愛情を表現することもできずにいる…なんだかいじらしい人。

黒田(全の雇い主であり友人)

黒田縫製工場にて、全をデザイナーとして雇っているが、

昔のような覇気と熱意を全に感じずに、ずっと待っている男。

全を雇いながら、毎月の養育費を清澄に渡しにやってくる人。

彼はずっと傍で清澄たちの成長を見守り、清澄自身ももう一人の父親のように

感じていた。それを押し付けがましく表現することなく、

ただじっと見守っているような、ひと。

彼が清澄と水青の名前の由来を読み上げるシーンは、こちらにも

迫るものがある。

淡々と」読み上げようと努めるその様子が余計に、彼の

優しさを物語っているようだ。

形は違っても、血は繋がっていなくても、

一般的でなくても彼らは「家族」であり、

きちんと繋がっている。

寺地はるな・そのほかオススメ作品

こちらも連作短編。私が寺地さんの作品に初めて出会ったのはこちら。

田舎の閉鎖された空間での生きにくさをいろんな角度から綴っている。

好きだなあ。

こちらも連作短編。

商店街を舞台にした連作短編。

連作短編が得意なのかなーと思う。

こちらは長編、しかもミステリー形式。

「川のほとりに立つものは」

このほかにも寺地さん作品は読んだけれど、

今の所一番好きなのは「水を縫う」である。

是枝さんに映画化してほしいなあ。「万引き家族」や「誰も知らない」みたいに

センセーショナルじゃないけれど、静かに、強く生きるいろんな形の家族、ということで…

どうだろう?

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