本屋大賞2025に選ばれた作品「カフネ」
本屋大賞といえば鉄板であるが、やはり実際読むのとあらすじでは違うものだ、と改めて思う。
あらすじを紹介しつつ、感想を綴りたい。

阿部暁子「カフネ」あらすじ
野宮薫子は法務局に勤める生真面目な女性。
待ち合わせにやってきた弟の元・恋人、小野寺せつなが待ち合わせ時間に遅れてやってくることに
苛立ちを隠せない。
薫子の弟、春彦は優しくて愛情の溢れる、温かな人間だった。
薫子は彼を愛し、大切に想っていた。しかし、彼は突然、亡くなってしまった…。
弟の死後、悲しみに打ちひしがれながらも、遺言書の通りに遂行しようと、遺言に書かれた通りに、
せつなへ遺産を渡すべく、せつなと会おうとしていた薫子だったが、頑なに遺産を受け取ろうとしない
せつなについに苛立ちが爆発する。
しかし、興奮で倒れてしまった薫子の生活は、弟の死だけではなく彼女自身の人生に打ちひしがれ、
追い詰められた生活をしていたのだった…。
タイトル | 「カフネ」 |
作者 | 阿部暁子 |
出版社 | 講談社 |
装幀 | 岡本歌織(next door design) |
カバー写真 | Nana* |
ページ数 | 全302ページ(単行本) |
本屋大賞2025「カフネ」感想 私の中のかっこいい女性
「カフネ」とはポルトガル語で「愛する人の髪にそっと指を通す仕草」であるらしい。
そんな意味を持つ言葉のある、ポルトガルって素敵だな、と思うのがひとつ。
愛する人、とは異性や恋愛対象だけではなく、こどもまたは血縁関係などがなくても
ただ「愛しい人」。
主人公・野宮薫子は、年が離れ、仲良くしていた弟、春彦を亡くし、
また離婚したばかりで、一人きりで生活をして完全に疲弊していた。
弟の元・恋人、小野寺せつなは、無表情でキリっとしていて人を寄せ付ける隙を与えない。
せつなは家事代行サービスの仕事をしており、その会社の名前が「カフネ」なのだ。
春彦の遺言を遂行すべく、せつなと会い、関わり、家事代行サービスの中の「ボランティア」として
薫子もそこに携わることになる。
「家事代行」サービスによって、それを必要とする人々の切迫した人生を垣間見る薫子。
そこが焦点かなと思っていたら、春彦の死の謎、というベースがある。
突然亡くなってしまった春彦の死には何か秘密があるのではないか。
若くして突然亡くなり、その後遺言書が見つかるということは…。
そして、彼の死後、薫子は自分が知らなかった、愛する弟、春彦の別の顔を見ることになる。
私は、この主人公、薫子という女性が好きだ。
不妊治療、離婚でボロボロになり、荒んだ生活をしていた薫子。
意地とプライドで自分を立て直し、せつなと関わっていき愛情を持っていく過程。
自分の努力によって、自分自身の人生を切り開いてきた、という自負。
なんとも愛らしい。
突っ走って突っ走って、ぶつかってボロボロになって、でも自分で立ち上がって、
他人にも愛情を持って…すごく不器用でまっすぐで、普通で、でも強くて、かっこいい。
一見すると、小野寺せつなという女性が人を寄せ付けない猫みたいに凛としていて、
美味しい料理を黙々と作ってかっこよく映るが、実はせつなにもたくさん弱い部分がある。
お互いがお互いを、拙い言葉で支え合って、愛情を注ぐ姿はなんとも美しい。
美味しそうな料理に、不器用な人間たちに、少しずつの愛情が重なり合って、大きく動く。
読み終わると、満ち足りた気持ちになれる。そんな小説だった。